陽のあたるところ

ぼーっとしたり、考えたり。

キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート vol.2

感想第二弾。

「英国王室が愛した花々」というタイトルの通り、展示されているパネルにはシャーロット王妃が如何にボタニカルアートの発展に貢献してきたかが記されていた。シャーロット王妃。ドイツより渡英し、ジョージ3世に嫁いだ人。植物や音楽を愛した多趣味な人。展覧会を通して、シャーロット王妃の人物像にも興味を持った。賢く献身的な女性という印象を受けたのだけれど、これから新たに調べたりしていく中で、その第一印象が自身の中でどう変化していくのかを楽しみにしてる。

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そんな王妃の名前を冠したオペラ・シャーロット。ホットのコーヒーをつけるか紅茶をつけるか迷って、コーヒーにした。事前情報で薔薇のジュレが乗っていると聞いていて、もしかしたら苦手な味かもしれないと不安になる(でも頼む)。どうだろうなぁと思いながら食べてみると、とっても美味しい!!ジュレの甘酸っぱさが本当に美味しくて、今度薔薇の味の商品を見かけたら買ってみようかなと思うほど。チョコレートが私にとっては甘すぎたから、食べるペースは自然と落ちる。結果、最後の一口までゆっくりと味わって食べられたような気がする。ケーキに乗っていたお花の砂糖漬け(たぶん)も初挑戦。たったの1枚で存在感のある甘さが口に広がった。けれど甘ったるいということもなく、満足感がある。私の知らない甘さだった。すみれや薔薇の砂糖漬け、個人で買ってみようかな。とても美味しかった。
(写真を見返してみると、お皿にあしらわれているのも薔薇なのかな?それとも別のお花だろうか、そういう細部にまで自然と気づけるおとなになりたいな。)

そして薔薇といえば。薔薇はイギリスにとって非常に重要な花であるということを今回初めて知った。連合王国の国花も薔薇なんだね、知らなかった。バラ戦争には覚えがあったけれど、テューダーローズのことは忘れていた。調べたら赤と白の織り混ざった薔薇の紋章で、ユニオンローズと呼ばれることもあるらしい。また、「西洋の薔薇を愛でる習慣には長い歴史がある」と聞いて、ローズガーデンへの素朴な疑問を思い出す。どうして薔薇のみを植えるのだろう、どうして薔薇だったのだろうと漠然と思っていたけれど、それだけ薔薇が身近な存在であったということなのかな。日本だったら桜だろうか。春の日にわざわざ皆で集まって見に行く花が桜であることに、今更誰も疑問を抱かないものね。

女性画家の中ではマーガレット・ミーンの作品が一番好きだったな。展示を見たとき、葉の筋に自然と目が惹かれてなんだか良いなと思ったことを覚えてる。少し場所が前後するけど、リーブス社の水彩道具箱が可愛くて可愛くて堪らなかった。部屋に置くだけでも満足できる可愛さ。女性の職業に植物画家という選択肢が増えてからは、ドローイングルームにああいう水彩道具箱が置かれていることもあったのだろうか。それってとてもわくわくして心が喜ぶような光景だ。いいな、とっても素敵だ。
女性やカンパニー・スクールの描いた展示たちと、それまで飾られていた西洋で(おそらく)男性によって描かれた展示たち。事前情報無しに見比べていたとしたら、何か感じ取れるものがあったのだろうか。描かれた展示に時折東アジア原生、というような解説が載っていた。植生から何かを連想できるようになるのもきっと面白いことだろう。地球って不思議で面白い。

最後。上映されていた映像2作を通して。

AIが写真から花の名前を正確に判断できるようになるのはまだ先であるという話を思い出す。技術がどんどんと進歩していく中で、それでも未だ植物画家が偉大な職業であることの理由が伺えた。動画には植物画家として働いている女性が出てきて、「植物に詳しいから、どこを描くかの取捨選択ができる」という旨のことを話していた。実際にそれまで見てきた展示の中にも、敢えて葉や茎の色を塗っていないものがあったり、花弁1枚だけを緻密に描いたものがあった。印刷技術や科学技術が進歩していっても、それでもまだAIは写真から花の名前を断定できない。どこを伝えるか、どこを省くか。そしてそれをどれだけ正確に描けるか。それは膨大な植物の知識と繊細な画力があってこその技であって、カラー印刷もAIも、まだまだ人間のそれには遠く及ばないんだなぁ。日々を生きていると、技術の発展の目覚ましさにばかり目が向くが、人間の出来ることや可能性もまた素晴らしいものであるはずなのだ。そう思い出したりした。

キューガーデンは最先端の研究機関でもある。どの人も自分の仕事に誇りを持って働いていることが強く伝わってきた。彼らのような人のことを、professionalと形容するのだろう。映像の中に、ガイドらしき方が何かを説明しているシーンがあって、それを見たとき羨ましいと思った。楽しそう。私も聞きたい。直接教えてほしいし、質問もしてみたい。実際にそういったツアーがあるのかは不明だけれど、「多少専門的な説明でも理解できて、質問までできる」というレベルの英語力が欲しいなと、目標が見えたような気分だった。そして、単純にキューガーデンに行ってみたい。「世界各地の植生をそのまま再現しているから、歩くだけで世界を旅しているような気分になれる」という旨の言葉を聞いて、天国のような場所だと思った。これは単なる私の妄想なのだけれど、“天国”にはきっとこの世にあった植物の全てが存在していると思う。(あくまで物語的な天国の話なので、死んだときにその天国に行くことになるとは思ってない。)無機質無感動な機構たる天使の群れ、ありとあらやる動植物の保全された地域。創作として天国を考えるとき、私はいつもそういったイメージを思い浮かべる。キューガーデンでその光景を目にしたとき、このイメージも何か影響を受けたりするんだろうか。そんなくだらないことを考えて、この感想の締めとする。